奇跡は突然やって来る。

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空がどんよりと薄暗く湿り気を感じる仕事の帰り道、あたしが歩くより少し先に中型の単車が止まった。 見慣れたその人は長い両足で単車を支えて、ヘルメットを脱いだ。 「よう、今帰りか?寄り道しねぇんなら送ってくぜ。」 彼は孤児院からの腐れ縁、宗田蓮司(ソウダレンジ)。 「ラッキー!蓮司も仕事帰り?」 「ああ、偶然…な。ほらメット。」 蓮司はあたしより2コ年上で、ぐれてた時は族の特攻隊長をしてて、クールなイケメンで喧嘩も馬鹿強い、頼もしいお兄ちゃんって感じだった。 サイドにタンデム用のヘルメットを常備しているあたり、さすがモテる男は違う。 受けとったヘルメットを被り、肩から下げたバッグを脇にぎゅっと挟んで、蓮司の背中にしがみついた。 「乳、当たってんぞ。」 ヘルメットを被り直して単車のセルを回しながら、からかってくる。 「ち…乳言うな!」 慌てて密着した体を離すと急にアクセルを吹かし、ウインカーも出さず車道へと飛び出した。 「ぎゃあっ!?」 単車がいきなり走り出したもんだから、後ろに強く引っ張られた…というより、落ちそうになった。 びっくりして離した体を、最初よりもっと強く抱きしめたら、風にのってヘルメット越しでも聞こえる大きな笑い声。 「あっはっはっはっはっはっ!!」 「危ないでしょ!?ワザとすんな馬鹿っ!!」 あたしの声はヘルメットの中に響くばかりで、僅かに漏れ出てもやっぱり後ろに流れて行く。 ささやかな抵抗で蓮司の後頭部に頭突きを食らわせば、笑い声は止まってクラッチ側の左手で、あたしの腕を軽く三回叩いた。 『ごめん』 同時に声が聞こえた気がしたけど、赤信号で止まった時にちょっとだけ手を離して、脇腹をくすぐってやった。 、
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