奇跡は突然やって来る。

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「ヤメろよ、危ねぇだろ。」 肩と首だけ少し捻って睨みながら、両手を掴んで阻止された。 「危ないのは蓮司の方で、あ、…雨だ。」 「やべぇな。お前ここで降りるか?」 泣き出した空からは小さな雨粒が落ち、次第にアスファルトを濡らして水玉模様が繋がり広がってゆく。 「え~やだ。どうせ傘ないもん。」 渋っているうちに信号が青に変わり、蓮司は無言で前を向きゆっくりと走り出した。 安全運転で車に列なり、同じスピードで景色は流れる。 雨足はどんどん強くなっていたけど、あたしのアパートまで後5分もあれば、余裕で着くはずだった。 矢印に従って交差点を右に曲がった直後…。 キイィィィーーーーッ!!! 急ブレーキをかけた甲高く長い音。 口に出るより頭に浮かんだ言葉。 『ぶつかるっ!!』 目に映ったのは、左側から滑りながら近付く黒い車と、運転席の若い男の顔。 グシャッッ!! 咄嗟にハンドルを切ったのか、タイヤが流れたのか…。 あたしの後ろで鉄が壊れる嫌な音がして、抱いていた蓮司の体が両手からスッポリと抜けた。 『飛んでる』 そう思った途端に、下からガシャン!って潰れた音が聞こえた。 『蓮司っ!!』 見えない現実、信じられない状況。 投げ出された体は言う事を効かなくて…。 『あたし、死ぬの?』 落ちていく感覚の中で、いつまでも激しい衝撃は訪れないまま、真っ暗闇の中にいた。 、
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