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何だろう?
不思議に思いながら移動して近くに腰を降ろしたら、手に持っていた墨の塊を渡された。
「摩ってみろ。地味だが結構落ち着くもんだぜ。」
机に肩肘つきながら、あたしの近くに硯を動かして寄せてくる。
手に持った墨と目の前の硯は、あたしが知っている物より大きくて擦り応えがありそうだ。
「墨汁よりコレが俺の好みなんだが、何しろ手間がかかっていけねぇ。どうせ摩るまで暇あっからよ、お前がやってくれりゃあ仕事の手伝いにもなるし、俺はゆっくり話しを聞いてやれる…一石二鳥だろ。」
最初は何で墨摩り?とか思ったけど、土方さんなりの優しさだったらしい。
「うん、これならあた…俺にも出来るよ。」
硯の窪みに溜まった水を撥ねさせないように、静かに先端を擦り合わせる。
小さく奏でる音が小気味よく耳に滑り込んだ。
「…黙るなって。」
夢中になっているあたしを眺めて、土方さんが頬杖ついたまま苦笑いしてた。
「あ、そうだった。…あの、凄く言いにくい事なんだけど…」
「何だ?」
少し離れた距離の分だけ声を出さないといけないのが恥ずかしくて、墨を置いてから耳元に内緒話をする。
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