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「夏輝(なつき)、それは俺の拾得物だ」
舞台の上の声が引き留めた。
夏輝さんは顔をあげてくすりと笑う。
「豹(ひょう)、珍しいこと言うね。
だから、さっきファンの子に詰め寄られたのか。
豹様が女の子と一緒に歩いてたんだけど、誰なのって聞かれて、僕はてっきり――」
夏輝さんの話を最後まで聞かず、とん、と、彼がステージから降りてきた。
衣装を着替えて、ここに来る前に見たスーツ姿に戻っている。オールバックで整えていた髪は、シャワーでも浴びてきたのか落ちていて、ゆるやかなウェーブを描いていてそれもまた、彼の整った顔によく似合っていた。
「よく待ってたな。
ご褒美に送ってやる」
相変わらず私の都合お構いなしに、彼はそういう。
あからさまにペットのように扱われて、むっとする。
「あの――お言葉はありがたいんですけど。私、今から泊まるところさがさないといけなくて」
はぁ、と、豹さんは重たいため息をついた。
「で、またさっきみたいに、『襲ってください、待ってます』みたいな顔してあの界隈を歩き回るんだ。
アンタ、馬鹿?
それとも、男不足?」
冷たい声に、カチンときた。
「そんな顔して歩いてないし、私は馬鹿でもありませんっ」
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