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「あ、あの。  私、まだ了承したわけじゃないっていうか、その……」  戸惑う私の存在なんてまるでないことのように、豹さんはさっさと歩きはじめる。 「ちょっと、待ってくださいよ、ねぇ……」  思いがけずぴたっと足を止めるので、今度はその黒スーツにぶつかってしまった。 「いったぁ……」 「何食べたい?」 「え?」  突然の質問に私はぶつけた頭をさすりながら、首を傾げる。 「自分の名前はいえなくても、食いたいもんくらいあるだろ。  だいたい、猫がにゃあにゃあ騒ぐ時は、腹が減った時か退屈した時って相場が決まってんの」  にぃ、と、紅い唇が意地悪に笑う。  ずっと怒っているような顔をしていた豹さんの表情が少し崩れただけで、なんだか単純にも心のどこかが軽くなった気がして、途端に私は、確かに空腹を覚えた。  だって、あのハンバーガー、全然食べれなかったんだもん。 「――手料理」  小さな呟きに、豹さんははぁ、と、眉を潜めた。  わぁ、また豹さんが無表情になっちゃう、と、思った私は慌てて言葉を繋げる。 「――みたいな食事が食べたいです。あからさまなレンチン料理じゃなくて」  豹さんはくしゃりと自分の髪をかき、周りの温度まで下げてしまいそうな冷たい瞳で私を捉えた。 「そういうお子様は、家出しない方がいいんじゃない?  ま、アンタが料理得意っていうんなら、うちの台所貸すよ?」  その言葉に、しょんぼりと目を伏せるほかない。  あんな母だけど、料理だけは得意で、いつだって美味しい料理を作ってくれたから――、私の手伝うまくさえなかったんだもの。あの家では。
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