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「魚は嫌いか?」  考え込んで黙ってしまった私に、豹さんが問う。  いえ、と言う前に 「――猫のくせに」  と、付け加えられたのでむっとして考えるより前に唇が動いた。 「人のこと、ねこねこって言うけど、ひょうなんでしょ? お兄さんはっ」  一瞬、豹さんの綺麗な顔の眉間に皺が寄る。 「そう、本名。  あの動物の豹、だ。  猫よりはずっと強いぞ」 「だから、私は猫じゃないですってば。  豹ー―様って呼んだ方がいいんでしょうか?」  やれやれ、と、豹さんは肩を竦める。 「それはやめとけ。  ファンの子に手を付けたかと勘違いされても困る」  その言葉に思わず笑いが漏れる。 「豹さんでも、困ることってあるんですね」  まだ出会ってから数時間だけど、いつもポーカーフェイスで飄々としているし、当然のように私のこと救ってくれたし――。  彼に、「困る」という単語は不釣り合いのように見えてついそう呟いてしまった。
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