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「今、ここで俺に押し倒される危険があるって微塵も思ってないわけ?」
吐息が、唇に触れ、ぞわりと肌が逆立った。冷たい声が、耳に痛い。
指先一つ動かせないほどの恐怖ってこれなのかと、身をもって知った。
「――ほんと、何もわかってないな。
そんな顔で怯えたって、男を喜ばせるだけ」
何も言い返せなかったのは、唇がふさがれたせいだ。
私の初めてのキスは、苦い、お酒の味だった。
ほんの一瞬、重なった唇はすぐに解放された。
呆然としている私をよそに、豹さんは向かいの席へと戻る。
「確かに、俺に襲われた方がラッキーかもな。
見知らぬ男たちに輪姦(まわ)されて、薬漬けにされるより」
豹さんは明らかに怒っていた。
私は恥ずかしさと、情けなさと、怖さがないまぜになって、いまだに動くこともままらない。
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