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「電話、かけて」
まるで、業務連絡のように淡々とそう言われて、少し頭に血が巡ってきた。
「どこに?」
「ナナの自宅に決まってるだろ。
俺、未成年略取で捕まりたくないし」
――そだよね。
豹さん、私の事情なんて何も知らないもんね。
ちゃんと、説明しなきゃ。
私も、業務連絡を告げるみたいに、言葉を紡いだ。
「――大丈夫ですよ。
お母さんは、居なくなった父を探しもせずに殺したような人です。
で、まるでその代りにするみたいに男をとっかえひっかえするような――。
食事だけは作ってくれたけど。
それだって、私がラッキーガールだからなだけで」
「って、お母さんが言ったの?」
出会った時と同じ、冷たい瞳、冷たい声が今は私を冷静にさせてくれる。
「本人がそういうこと言うわけないでしょ?」
「じゃあ、アンタの思い込みかも。
とにかく、電話で無事を伝えて」
私はカバンから携帯を取り出すが、それでも決心がつかない。
「ナナは知り合いを訪ねて東京に来たと言えばいい。
後は、俺がなんとかしてやるから」
さっきまで淡々としゃべっていたくせに、唐突に、豹さんの声に感情が現れてどきりと心臓が跳ねた。
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