1832人が本棚に入れています
本棚に追加
私が渋っていると、豹さんが付け加えた。
「もう、こんな時間だし、3コールで出なかったら、切って良い。
電源ごと」
その、冷たい瞳からも口調からも、どうやっても逃げられそうになくて、仕方なく電話をかける。
1コールも終わらないうちに、電話に出た。
母は、三度も私の名前を繰り返す。思ったよりずっと、取り乱しているみたいで私の方が驚いた。
「うん――。
そうだよ。元気。大丈夫。
今日さ、お母さん、家に誰か連れ込んだよね。
私、それだけは嫌って言ったじゃない」
ヒステリックに叫ばずに済んだのは、豹さんが目の前に出たからだと思う。
一息に私が喋ったのを見届けた後、当たり前のように私の電話を取り上げる。
「遅い時間にすみません。
みーーさんのお母様ですか」
まるで別人のように、柔らかく滑らかな語り口だった。
ほんの少し前まで、仏頂面で冷たい声しか出してなかったのに、急に信頼のおける教師を髣髴とさせるような、温かみのある声が出せることにびっくりする。
私の名前なんて、頭文字しか知らないのになんで上手く話しを進められるんだろう。
豹さんは立ち上がると隣の部屋へと行ってしまった。
残された私は、そわそわしてちっとも落ち着けない。
最初のコメントを投稿しよう!