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 私が渋っていると、豹さんが付け加えた。 「もう、こんな時間だし、3コールで出なかったら、切って良い。  電源ごと」  その、冷たい瞳からも口調からも、どうやっても逃げられそうになくて、仕方なく電話をかける。  1コールも終わらないうちに、電話に出た。  母は、三度も私の名前を繰り返す。思ったよりずっと、取り乱しているみたいで私の方が驚いた。 「うん――。  そうだよ。元気。大丈夫。  今日さ、お母さん、家に誰か連れ込んだよね。  私、それだけは嫌って言ったじゃない」  ヒステリックに叫ばずに済んだのは、豹さんが目の前に出たからだと思う。  一息に私が喋ったのを見届けた後、当たり前のように私の電話を取り上げる。 「遅い時間にすみません。  みーーさんのお母様ですか」  まるで別人のように、柔らかく滑らかな語り口だった。  ほんの少し前まで、仏頂面で冷たい声しか出してなかったのに、急に信頼のおける教師を髣髴とさせるような、温かみのある声が出せることにびっくりする。  私の名前なんて、頭文字しか知らないのになんで上手く話しを進められるんだろう。  豹さんは立ち上がると隣の部屋へと行ってしまった。  残された私は、そわそわしてちっとも落ち着けない。
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