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 お気に入りの曲を聞きながら、結構なスピードで進んでいく窓の外の景色を見ていた。しばらくたって、少し動揺が落ち着いてくると、このあまりにも無計画な家出は大丈夫なのかと不安な気持ちもこみ上げてきた。  こみ上げる不安をぬるくなったペットボトル入りのレモンティと一緒にごくりと飲み込む。  慣れないカフェインの味に僅かに眉を潜めたが、乗客の少ない車内で私のそんな些細な変化を気にするような人は見当たらなかった。  どうせ、後数か月で高校を卒業してこの家から出る予定だったんだもん。  少し早くなったくらいどうってことないわ、きっと。  だって私は稀にみるラッキーガールだもん。なんとかなるに決まってる。  そう考えて、自分を鼓舞した。  それに、父親のことだって、一度も探そうともせず放置していた母だもの。  私のことだって、きっとそのうち忘れるに違いない。  東京駅から山手線に乗って新宿へと向かったのは、単にその地名に聞き覚えがあったから。これが夕方の帰宅ラッシュというものなのかしら。  行き交う人の多さに圧倒されながら、なんとか無事に降りることが出来た。  なんとなく人の動きにあわせるように入ってしまったファストフード店で、美味しくもないハンバーガーとただ塩辛いだけの脂ぎったポテトを口にする。  お腹はすいているはずなのに、半分も食べることが出来なかった。
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