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「悪い、待たせたな」  男の言葉を遮って、誰かが私の手を握る。 ――え?  あまりにも好みの声が降ってきたことに驚いて顔をあげると、見知らぬ男の人がそこに居た。  オールバックの黒髪、端正な顔立ち。筋の通った鼻にやや厚みのある紅い唇がとても色っぽい。僅かに目じりが下がり気味の形の良い瞳が、ややすると冷たく見える彼の顔にキュートさをもたらしていた。こんな素敵な人、知り合いなはずもないわ。  初対面の彼の台詞に首を傾げようとする私を、その人は目だけで制した。  圧倒的な目力に思わず息を呑む。 「行こう」 「――はい」  ちゃらちゃらした男に文句を言わせる隙も見せず、その人は私を窮地から救い出してくれた。  なんなの。  この少女マンガみたいな展開。 ――やっぱり、私がラッキーガールだから?  でも、ちらりと見上げた彼は漫画に出てくる王子様さながらのヒーローのように微笑んではくれなかった。どちらかと言えば不機嫌そうな顔で、手を繋いでいる私には目もくれずずんずんと歩いて行く。
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