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でも、豹さんの方は、引っ越しを機にキスもしなくなったし、一緒に寝るのさえやめてしまった。
豹さんの言い分としては、「部屋数が増えた」「ベッドも新調した」
そして、「それにもう、アンタは猫じゃない」というものだった。
一瞬、本気でカチンときて、その後すごく切なくなって、もしやこれが失恋なのかと思って泣きそうにまでなったら、豹さんはひどく困った顔をして私の手を掴んでくしゃくしゃと頭を撫でて囁いたのだ。
『受験勉強の邪魔、されたくなかったら黙って言うこと聞いてろ。
俺の抑えが効かなくなったら困るのは満月だぞ』
熱い吐息が耳を擽って、思わず顔が真っ赤になったので豹さんの手から抜け出して、なんとなくもうその件には触れられなくなって今に至る。
もちろん私は、クリスマスの夜に「これ、首輪代わり」と、制服の下につけたら隠れるくらいの長さの、『H』のイニシャル付きネックレスをプレゼントしてくれた豹さんの真意がわからないほど子供でもないから、後数か月勉強しながら私はその日が来るのを秘かに心待ちにしていたりもする。
ピンポン、と、呼び鈴が鳴ったのは夜の9時を過ぎたところだった。
「そろそろ受験勉強も終わったかなと思ったんですけど、いかがでしょう?」
夏輝さんがささやかな年越しパーティーでもとお酒片手に訪ねてきたのはきっと、一人で年を越したくなかったからに違いない。
入院している円花さんは、夏輝さんを見るととても情緒不安定に陥るので、お見舞いすらいけないと嘆いているのは、豹さん経由で聞いていた。
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