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大通りを一騎の騎兵が駆け抜けていった。
凶報を持った早馬。
確かなところは分からないが、おそらく間違っていないと思う。
赤と茶の混じったような髪の少女は、手に抱きかかえた新しい衣を強く握り、騎兵とは反対方向に歩き始めた。
少女の名は燐夕(りんゆう)と言う。
故郷を離れ、今は慶(けい)王朝の都で暮らしている。
都に誘われた時は、皇帝の女になれるかもしれぬ、とうまいことを言われ、彼女の父はそれに乗った。
その結果がこれだ。
後宮の女になるどころか、後宮の女達の雑用、加えて掃除をさせられる日々が続いている。
こんな仕事はもう辞めて、早く故郷――煉州(れんしゅう)に戻りたい。
雑踏の中を燐夕は歩く。塀に背中を預けて座り込んでいる者、忙しく荷車を引いて歩いていく男、道行く男に媚びてすり寄る女――。満たされた顔をしている者はほとんどいない。今、笑顔を作れるのは貴族だけだろう。
燐夕は自分の宿を目指しながら、かつて想いを寄せていた男の顔を思い返した。
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