序章――平穏いまだ遠く

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   その男の名は超水(ちょうすい)と言った。  煉州の名門の家の跡取り。同年代の男で、彼に武術で勝てる者は一人もいなかった。それでいて驕ることもなく、常に自らを鍛え続けていた。そんなひたむきな姿に、燐夕はすっかり魅せられていたのだった。  彼はどうしているだろう。  煉州軍がこの都に攻め上ろうとしていることは、都の誰もが知っている。官軍も敗戦を繰り返している。  反乱軍の中に、超水はいるのだろうか。いつものように、静かに闘志を燃やして、槍を振るっているのだろうか。  燐夕は、彼が自分を助けに来てくれることを期待していた。もちろん、それは超水の気が変わっていなければの話だ。離ればなれになって、違う女を好きになってしまっているかもしれない。急に寂しさがこみ上げてきて、燐夕は下唇を噛んだ。  ……超水はあたしの男よ。  違う女など、絶対に認めない。  燐夕は立ち止まり、天を仰いだ。  ……早くあたしを連れ出して、超水。  
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