第一章――広がる戦火

2/33
前へ
/105ページ
次へ
   大陸が乱れている。  次々に入ってくる情報。変わっていく各地の戦況。  大陸地図を見ながら、貫(かん)州の太守、香京(かきょう)は、今後の方針を考えていた。  慶王朝がまだ正常に機能していた頃、莫大な金を費やして完成させたと言われる大陸地図。  香京は地図の左端に指を伸ばす。 「呈(てい)州は取った」  右下へ。 「煉州軍はすでに英(えい)州に入った」  また左。 「情(じょう)州軍は汕(さん)州に進撃した」  再び右。 「風(ふう)州も反乱の戦力を整えている」  香京は振り返った。貫州の頭脳、沛黄(はいこう)が立っていた。 「我らもそろそろ動くべきであろう」 「はい、空気もだいぶ暖かくなりました。これからの季節なら、兵士も戦いやすいかと」  呈州を制圧してから時間が経ち、今は四月の下旬にさしかかろうとしている。 「進撃の際は、私が指揮をとるつもりでいる」 「承知いたしております」  沛黄は頭を下げた。彼は貧しい農村の出で、幼い頃は母親から暴力を受けていた。右頬に黒い痣がいまだに残っている。そんな沛黄も、今では貫州になくてはならない存在になっている。  
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

600人が本棚に入れています
本棚に追加