第一章――広がる戦火

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  「十二隊! まとまっておらんぞ!」  指揮台から怒声が飛び、超水は苦い顔をした。怒鳴られた十二隊は、超水が指揮をとる部隊であったのだ。  超水は馬上から、 「動きが鈍いぞ! 膝を使って柔軟に動け!」  と指示を飛ばす。  現在、この平地では二万の兵士が調練に励んでいた。どこもかしこも赤い鎧の男だらけだ。どんな地形にも対応できるようにと、今日は斜面を走り回っている。その中で超水隊は、明らかに動きが鈍かった。  傾斜に対応できておらず、上体が安定しない者や、地面のヒビを避けようとして転ぶ者などが続出している。  超水は右手で額を押さえた。  ……今日怒られているのは俺達だけか。  他の隊が、総大将である老将、機英(きえい)に怒鳴られる様子はない。もっとも、怒鳴っているのは機英の副将である馬徳(ばとく)なのだが。 「足元を確認しながら走るから遅くなるんだ。一目で地形を全部頭に叩き込め」 「そんな無茶な……」  超水に反発する声がこぼれる。なかなか隊がまとまらないのが、最近の悩みだった。  
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