第五章

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岩からひょこっと顔を覗かせると、喜助たちは既に竿を海に垂らしていた。由江と陽菜に気づくと、弥七、タイガ、友吉は手を振った。由江が喜助たちのもとへ降りようと、岩に手をついたときだった。 「そこで見てろよ。降りるの、危ないからさ」 視線を後ろに向けながら、喜助が言う。由江は「・・・うん」と小さく頷いて、岩に座った。陽菜も、隣に座る。タイガは竿を見せて、 「少ししなった棒を使うのがコツなんだぜ」 と得意な顔をする。なるほど、みんな少ししなった太めの木の棒や竹に蛸糸を結び、その先にエサをつけている。手作りなのだろう。やがて、喜助の竿がピクリと動いた。友吉が「おっ」と声を漏らす。 「来た、来た来た!!」 叫びながら、喜助は勢いよく竿を引く。太陽と重なる鮎ほどの魚。水しぶきが、由江にもかかった。 「ほら見ろ!すげーだろ!」 喜助の満面の笑み。由江もつられて気分が高まり、 「うん、すごいよ!」 と答えた。それから友吉、タイガ、弥七と次々に魚を釣り上げる。穴場というだけのことはある。 友吉は石を擦り合わせて火を起こし、魚を焼いてくれた。由江はそれにかぶりつく。海魚とだけあって塩が乗っていておいしい。陽菜もそれを口にする。言葉を発することもなく、淡々と食べていた。
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