出発の朝と温泉と

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慧「聖奈、外が空いた」 聖奈「…え?」 考え事に夢中になってたのか、慧がそう言うまで私は水面を見つめていた 外の音に耳を傾けて見ると、さっきまで薄らと聞こえていた話声が確かに無くなっていた 慧「…悩み事?」 そう言いながら慧は私の顔を覗き込んできた 聖奈「ん、違うわ ただ橘内の言ってた写真のことを考えてただけよ」 梗は自分のことをあまり私達に言う事がないから、必要最低限のことしか私達は知らない 写真の事も聞けば教えてくれるだろうけど…下手に触れられたくない事かもしれない そう思うと、聞こうにも聞けなくなってしまう私がいた 慧「篝に聞けば、解決できる?」 聖奈「どうかしら?橘内も梗の事は深くまで知らないんじゃない? とは言っても、私達はそれ以上に知らないことに変わりないんだけど」 私達2人から見て、橘内は見たままの能天気、穴見はバカというイメージがある でも梗に限っては、正直情報不足過ぎて『なんとなくいいヤツ』になっている 聖奈「ねぇ慧?梗ってさ、私達と距離を取ってるように感じない?」 慧「聖奈の言い分は分かる でも篝が聞いた話だと、相手と同じ距離を取ってるだけらしい」 聖奈「つまり、鏡に映った自分との距離みたいなものって言いたいの?」 鏡に映った自分の姿は、鏡との距離を開ければ遠退いて行く つまり梗は、相手の自分に対する距離と同じだけ自分から距離を置いてるって事になるわ 慧「人間誰しも、知られたくない物はある」 聖奈「…確かにそうかもね」 私にだって、人には見られたくない物はある 高等部からの親友である慧にも言えない秘密があるんだし、出会って2年程の梗に距離があってもおかしくない 慧「でも裏を返せば…自分の全てをさらせる人には、同じように自分をさらせるという事 隠し事はナシと言いきれて、何でもさらけ出せる人には穂坂も同じように接するという事」 確かに慧の言うことは間違っていないと思える でも実際にそんな人がいるかと言うと、少なくとも私の知る限り1人もいない 人との距離を測るのが得意な梗は、そうやって自分の秘密を守ってるのかもしれないわね…
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