第壱章

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梦月櫻が俺を選んだ理由……。んだよ…それ…。 なんか異様にムシャクシャしてきたから部屋から出た。荷造りも出来たし…庭でも散歩しようかな…。 『お前は…自分の価値を分かっていない』 梦月櫻の言葉。あんな…揺らいだ瞳で…哀しそうな声で言うんじゃねえよ…。 分かってたまるか、あほ! 「姫…どこへ行く?」 「…未連祈か…。ちょっと庭に出るだけだよ」 「なら一言俺に言ってくれてと、ずっと言ってるだろう…」 「言わなくても来てくれるじゃん?」 「………はっ、全く。」 そう笑って言った未連祈の顔は太陽の笑みが似合う笑顔だった。 こんな奴が大妖怪を名乗ってるんだから…妖の世界ってどうなってんだか。 「姫は今年で16歳か…。月日が流れるのは早いものだ」 「そうだな…」 「生まれたての時は、あんなに小さくて可愛らしかったのが…今やこんな美人に育ち、姫としての仕事もこなしている。俺達、お目付役は姫の成長が嬉しい限りだ。」 「…まあ、小さい頃から一緒に居てくれてたもんな…。俺も感謝してるよ…。あの妖に攫われそうになった時、お前等が必死に助けてくれた事、しっかり覚えてる。他にも色々世話してくれたし?」 下から未連祈の顔を見上げると、照れ臭そうに困った顔をする。ほんと、昔からいつも一緒に居てくれたお前等…。お陰で俺は寂しくなかったんだぜ…? 「俺は…姫を愛しているよ…。一番大切な…大切な存在だ。」 「…未連祈。」 こんな俺を家族として愛してると言ってくれるのか…。 「ああ、ありがとう。」 「絶対意味分かってないだろ…」 項垂れる未連祈の真意は柚姫には分からぬままだった。 .
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