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セオドアがカインへ抱いているのは、憧れ以上の感情だった。
神々しい鎧に身を包む、気高く美しい人。セオドアと共に旅していた頃の虚ろは消え、眩しいくらいに強い意志が備わっている。
「カインさん、稽古つけてください!」
魔導船内で待機していたセオドアは、同じく待機中のカインに少しでも多く構ってほしいと思っている。カインになら、子供扱いされても嬉しかった。すらりとした、武骨ながらも繊細かつ艶やかな手で、頭を撫でてもらいたい。あわよくば、抱き締めてもらいたい。
そのような企みを胸に秘め、セオドアは子供らしく元気よく駆けていった。
しかし。
「待ちなさい、セオドア」
背後から聞こえた穏やかな、しかし威厳のある声は現バロン国王セシルのものだった。ゆったりと歩く様は、大人の余裕の表れ。ただし、セオドアはそれがセシルの作戦である事を知っていた。
優しい笑みを浮かべる父へ、王子はじっとりした目を向ける。
「…なんですか」
「私が先客だよ。カイン、折角の休憩だし、久し振りに僕と二人でお茶しないか?」
困り顔のカインを余所に、父と子の間で激しく火花が飛び散った。
「先に声を掛けたのは僕です、早い者勝ちです!」
「お前はまだ子供だよ」
「年齢なんか関係ありません!とにかく、僕は譲りませんよ!」
「譲るも何も…私が優先だからね。私と本気で手合わせして勝てるなら考えてあげるけど」
「ひっ…酷いです!か弱い子供を全力で潰すなんて!」
「セオドア、理屈だけでは生きていけないよ。力で捩じ伏せなさい」
バロン国王である親友の口から、とんでもない発言が聞こえた気がする。だが、蚊張の外のカインは無視する事にした。
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