*逸話

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 とある屋敷の庭。美しい桜の木の下で彼は書物を読み耽っていた。  屋敷は朝から急な客人が来たと騒がしかったのだ。 (たかだか客人程度で騒がしい。)  内心悪態を吐く。  彼は栄華の片鱗を手にしたこの家では地位が低い。生まれ付き病弱なのが一番の要因なのだろう。  別に、家柄なんか彼にはどうでも良かった。家督なんて兄弟にくれてやる、と迄思っていた。  虐げられ、嬌声、罵声を聞く毎日なら家を出てやるとも思っていた。  現実はそこまで甘くないが。  薄紅の桜が舞い降りる。桜を見るとなぜだか落ち着くのだ。  好きな花だと言うのもあるのだろう。 「うっわ…綺麗な桜だネ。」  和んでいる彼の耳に部外者の声が入った。
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