1、合縁奇縁 あいえんきえん

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2026年、2月。 首都圏は慣れない大雪が降り、道路状況は麻痺。 昨日の夕方、談話室にあるテレビがそんなことを言っていた。 黒部カズキはその時テレビ画面に映っていた光景を思い返した。 アナウンサーが気温8度を示す温度計を仰々しく指さし、ダウンジャケットをまとった体を震わせていた。 しかし、今自分たちがいる場所の気温は5度だった。 しかも室内で、上着も来ていない。 指定のインナーの上に、私物のジャージ上下を身につけているだけだ。 ふざけるのもいい加減にしろ、とそのアナウンサーに言ってやりたい気分だった。 寮の洗面所はいつものようにごった返している。 カズキは行きかう人を押しのけ、開いている洗面台を確保した。 壁に備え付けられた鏡を見る。 緩やかにウェーブのかかった長めの髪に埋もれた、しかめっ面の自分の顔が映っている。 かじかむ手に鞭を打ち、蛇口をひねった。
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