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ガミングやミリアム達が影の結界から逃れ危機を脱したその先で、しかしそれとはまた別に心を痛ませているその時。
幻想郷は、その至る所で戦いの火を吹き上げていた。
それは正しく、戦火。荒れ狂う火は、揮うモノも揮われるモノも、その全てを巻き込んで焦がし、焦らし、舐り、止め処ないそれはまるで渦の様に辺りのものを巻き込んで、更に火の手を増していく。
名も無い妖怪が。名のある妖が。力無い人間が。力あるニンゲンが。
各々の理由で、各々の事情で、乗り込み、呑みこまれ、巻き込まれていく。
その様を、幻想郷を一望する遥か上空から見下ろし、さも哀しいと言わんばかりに表情を曇らせる妖怪が一人。
開いたスキマに腰掛ける幻想の賢者。彼女の名前は、八雲 紫。
強大な妖怪となった影妖怪へぶつけるために、ガミングを手ずから引き入れ……うっかりと……そう、うっかりとミリアムを幻想入りさせた彼女は、淀み狂う幻想郷を見回して小さくため息を吐いた。
「……このままでは、いけないわ。ええ、いけません。私は確かに望みました。幻想郷の懐の深さを利用して、変わらない幻想達を変質させました」
つい……と、流した瞳が捉えるのは、黒く艶やかな壁に覆い隠され姿の見えない、彼女にとって大切な場所。
「……でもね、私が思っていた以上の働きを、アレはやってしまっている。私が思っていた以上の変質を、郷にもたらそうとしている……駄目なのよ。それは駄目。変革は望んでも、改革は必要としていない。違うものなんか必要ない。私の……」
そうして、開いたスキマに身を躍らせて、賢者はそっと言葉を残した。
「私の幻想郷で無くなってしまっては、何の為の……ねぇ、幻想郷……アナタはこのままで良いのですか?」
そうして、暗雲渦巻く郷の空の下。
八雲 紫が心を痛める場所。博麗神社の境内で、八雲 紫が心を痛める彼女が、強く笑っていた。
「良い訳ないでしょ。馬鹿なの? 死ぬの? 分からない馬鹿なら死になさい。分かる馬鹿なら黙ってなさい。やっと調子が出てきたんじゃない。やっと楽しくなってきたんじゃない。 ……退屈じゃないってのは、ああ、うん。良いものね」
それはもう、清々しく。
そうして、霊夢の言葉に、意気に、その迫力に共鳴するように、至る所で渦が弾けた。
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