17人が本棚に入れています
本棚に追加
白玉楼。
冥界を管理する大屋敷は、普段の物静かな雰囲気を物の見事に吹き飛ばされていた。
庭師を務める魂魄 妖夢が日々せっせと整え続けている見事な中庭も、今では無粋に踏み荒らされ、見るものの目を楽しませる調和の風情は見る影もない。
その事に、屋敷の主である西行寺 幽々子はまず誰よりも悲しみ、同時に憤慨していたが、しかしそんな心持ちなどおくびにも出さず、僅かに笑みすら浮かべてみせて、眼前で立ち回る妖夢に声をかけた。
「あらあら、これは掃除が大変そうね~。もし一人じゃ手に負えない様なら……」
「冗談はこいつ等影妖怪だけにしておいてください幽々子様! 心配せずとも、庭は私が直しますし、こいつ等も私が追い払います……幽々子様の身を守る盾には、なれそうにありませんけど……」
鋭い剣戟を影人へ揮いながら、眉を顰めて言う妖夢。
白玉楼に襲い掛かった影妖怪は、人里を襲った時と同じく膨大であった。
それら複数の影相手に立ち回る妖夢は、幽々子の傍にいる事すら難しい状態なのである。
しかし、そんな妖夢の言葉に幽々子は目を丸くして言う。
「あら、自分の身くらいは自分で守るわよ~。それに……妖夢。あなたいつから盾になったの? 振り回してるそれは何だったかしら?」
幽々子の言葉に、今度は妖夢が目を丸くする番であった。
幽々子よりも大きく、まさに目からウロコといった様子で。
彼女が握り、揮うもの。それは二振りの刃に他ならない。
ならば、西行寺の懐刀たる自身こそは、一振りの刃に違いない。
「……お任せを。幽々子様の剣として、火の粉は払ってみせます!」
「はいはい。その意気その意気」
気合を入れなおす妖夢に気のない相槌を打ちながら、幽々子もまた影妖怪の動きを油断なく観察する。
そして、大きな口を叩いた割りにもう手が詰まりそうな従者の姿に、やれやれと肩を竦めた。
最初のコメントを投稿しよう!