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永遠亭。
竹林の奥深くにひっそりと佇むその屋敷にも、白玉楼に負けず劣らず影の群れが襲いかかっていた。
いや、僅かにこちらの方が数が少ない気もするが、それもほんの気休めにしかならない程度。
戦いの中にある者達にとっては、そんな実感はなかった。
「ししし……しっしょーーっ!! 無理です無茶です無謀ですーっ! この数は幾らなんでも抑え切れませんよーっ!」
必死の形相でところかまわず弾幕を打ち続けている鈴仙は、息をつく合間にそう叫んだ。
時折接近を許した影から必死で逃げながら、それでも影達に対して抵抗している辺り、彼女も随分と器用で思った以上にタフなようだ。
しかし、そんな頑張りを見せている弟子を尻目に永琳はふむふむと顎に手をやり思案顔。
時折手元のカルテに何やら書き込みながら、鈴仙と影達の戦いを見ているばかり。
さっきからこの調子であり、全く手を出してこないのである。
困ったのは鈴仙だ。師にそういう行動に出られると、弟子としてはその身を守らざるをえない。
無防備な姿を曝す師に群がる影の注意を引くことで、結果として鈴仙は多くの隙を影に晒し、間一髪のタイミングでその攻撃をかわす事で冷や汗をかき続けていた。
上手く立ち回る鈴仙であったが、幾らなんでも多勢に無勢。
「あ……」
と声を漏らしたのは、もつれた足に思わず地に手をついた時。
ああ、これは死んだかなと嫌な想像が脳裏に浮かぶが、しかし影の追撃はない。
その段になって、やれやれと、漸くかと重たいため息を漏らし鈴仙は師の姿を見上げた。
「遅いですよぅ、師匠」
「ごめんなさいね、うどんげ。私とした事が、ちょっと手間どってしまったわ」
そこには、鈴仙に向けられた影の拳をその腕ごと抱えた永琳の姿があった。
永琳は思案していた。
影妖怪というモノを話には聞いていた彼女であったが、見るのは初めてだったのである。
さしもの影達も迷いの竹林を越えてくる事は難しかったのか、今の今まで襲い掛かってくる事はなかったのだ。
基本的に屋敷を出る事のない永琳が、影をよく知らないのも無理はなかった。
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