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だが、しかし。
どれ程力が強くても。どれ程体が頑丈でも。どれ程その身が重くても。
「いいえ……だからこそ、壊し方っていうのはあるものよ」
そう静かに呟いて、永琳は捕らえた腕にそっと手を添えて、その身を強く捻り挙げた。
響いた音は、バキリとも、メキリとも聞こえる破砕音。
体の奥深くから響くその音に、傍で見ていた鈴仙が思わずブルッと身を震わせた。
鈴仙は知っている。今の音を聞いた事がある。
時に掴んだ相手から。そして、自分の中からも。
それは、内部の芯が砕ける音。関節が拉げる音だった。
「ああ、やっぱりそうなのね」
納得したと言わんばかりに頷いて、素早く影の背後に回りこんだ永琳が次に掴んだのは、影の頭部。
掴んだと思った時にはすでにその身は反転し、影は鈴仙の目の前でその頭を上下逆さに捻られて霧散した。
「あなた達はとても強い妖怪ね。高い身体能力。硬い体。しかし私は知っているし、実際に見たし、やってみて確信を得たわ」
ニヤリと口元を歪め、襲い来る影達を捕らえては、聞く者全てに怖気が走る音を響かせ続ける永琳。
「あなた達はそんな見た目だけれど、構造や感覚というものは私達と変わらないのでしょうね。いいえ、実際に中身を覗いてみないと断言はできないのだけれど……でもまぁ、効いているという事はそういう事」
振り上げた拳を影の側頭部下に叩き込み、膝をついた影人を置いて反転。
背後に迫っていた影猿の掴みかかろうと広げた指の一本を握ると、そのまま動けない影人に叩きつけた。
涼しい顔で、まるで舞い踊る様に影達を捻り砕いていく師の姿に、鈴仙は思わず目に涙を浮かべて後ずさった。
「うどんげ」
「は、はひぃっ!?」
「何やってるの。あなたも手伝いなさい。まぁ、サブミッションの練習にはもってこいなのだけれど、それにしても一人でこの量は……」
そう言って表情を曇らせる永琳の姿に、やっぱりこの人でもこの数は辛いんだなと一瞬妙な親近感を覚え。
「その……なに? うん、飽きそう」
そんな事はなく。やっぱりこの師匠はとんでもないんだなと、今更の様に思うのだった。
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