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永遠亭を取り囲む膨大な竹、竹、竹。
その竹林の中を悠然と歩くのは、本来屋敷の奥に居る筈の主である蓬莱山 輝夜であった。
遠くに響く喧騒を尻目に、あくまでも静々と歩みを進める彼女からは闘争の興奮も不安も感じられない。
それも仕方が無い事なのかもしれない。
彼女からしてみればであるが……この程度の戦いが、害意が襲ってきたとして、だからなんだというのか。
彼女が唯一認め、求め、許す相手の放つソレと比べれば何の事はない。
故に輝夜はこんな状況にあって退屈していた。
ちょっとそこまで散歩にでも出ようか。そう思い、それを実行する程に。
そんな用心も何もあったものではない輝夜に襲いかかるのは、巨体を揺らして飛び掛かる影猿。数は三体。
それをチラリと視界に収め、彼女はやれやれとため息を漏らした。
そうして、彼女に飛び掛かった格好のままいつまで経っても降りてこない影猿を見つめて、彼女は隣り合う自分に声をかけた。
「このやり取りも何度目かしら。ああ、いいわ。別に数に興味はないから、答えてくれなくても構わないわよ」
「勿論よ。というか、何度目かなんて数えている訳ないじゃない」
互いに目を見合わせて苦笑を零すその姿はまるで鏡に映した姿を見ているようだが、しかしそれは違う。
輝夜の前には、間違いなく輝夜が存在していた。
蓬莱山 輝夜。
彼女の能力は『永遠と須臾を操る程度の能力』である。
この能力を極単純に説明するならば、それは時への干渉能力だと言えるだろう。
単純に時間を圧縮したり引き延ばしたりと自由自在であり、彼女のこの能力を軸として、かつては永遠に終わらない夜を幻想郷にもたらした事もあった。
が、それは彼女の能力を雑把に捉えたものでしかない。
その真骨頂は、別にある。
蓬莱山 輝夜は時間移動を可能としている。
永遠に引き延ばされた時間の中で、数秒前の自分に会いに行く位は造作も無い事であった。
無限に続く一秒の中で、三秒前へ逆行するという馬鹿馬鹿しさ。
そのあまりにも理不尽かつ我儘な能力こそが、彼女の持つそれなのだ。
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