6人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「……先輩」
もうすっかり空も紅に染まってしまい、太陽もグラウンドのマウントに沈み始めた頃、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
少年は振り返らず……いや、振り返られずにうん、とだけ返す。
こんな顔を、見せるわけにはいかない。二年間自分達を影から支えてくれたマネージャーに、こんな惨めな顔を見せるわけにはいかなかった。
大会前に彼女が作ってくれたミサンガを握りしめ、少年は空を見上げた。
「先輩……あの、おつかれさまでした」
少女は静かに、染み入るように呟いた。癖のように服の袖から半分だけ指を出し、袖をモジモジと握りしめる。
「うん」
少年も静かに、そのまま消えそうな声で答えた。強く握りしめたミサンガが、小さな音をたてる。
甲子園ではない別の願いがかけられたミサンガが……
無音。もう二人しかいない学校で、緊張の時が流れる。
「砂を、さ……」
少年が沈黙を破る。
汚れきった9の背番号を見つめながら、少女はなおも沈黙を続けた。
「砂をさ、もって帰ろうと思うんだ。甲子園には行けなかったけれど、甲子園よりも、ここの砂を」
ポケットから取り出した小さな小瓶。
「おれと、あいつと、みんなの汗と……涙と、青春がつま、た……この……う、うぅ」
「先輩……」
ふいに、少年の背中から温もりが伝わった。
青春の詰まった小瓶を、ひとつ
最初のコメントを投稿しよう!