─土の入った小瓶─

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「……先輩」 もうすっかり空も紅に染まってしまい、太陽もグラウンドのマウントに沈み始めた頃、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。 少年は振り返らず……いや、振り返られずにうん、とだけ返す。 こんな顔を、見せるわけにはいかない。二年間自分達を影から支えてくれたマネージャーに、こんな惨めな顔を見せるわけにはいかなかった。 大会前に彼女が作ってくれたミサンガを握りしめ、少年は空を見上げた。 「先輩……あの、おつかれさまでした」 少女は静かに、染み入るように呟いた。癖のように服の袖から半分だけ指を出し、袖をモジモジと握りしめる。 「うん」 少年も静かに、そのまま消えそうな声で答えた。強く握りしめたミサンガが、小さな音をたてる。 甲子園ではない別の願いがかけられたミサンガが…… 無音。もう二人しかいない学校で、緊張の時が流れる。 「砂を、さ……」 少年が沈黙を破る。 汚れきった9の背番号を見つめながら、少女はなおも沈黙を続けた。 「砂をさ、もって帰ろうと思うんだ。甲子園には行けなかったけれど、甲子園よりも、ここの砂を」 ポケットから取り出した小さな小瓶。 「おれと、あいつと、みんなの汗と……涙と、青春がつま、た……この……う、うぅ」 「先輩……」 ふいに、少年の背中から温もりが伝わった。 青春の詰まった小瓶を、ひとつ
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