─玩具の指輪─

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「もう呪いよね。どう頑張ってもとれないんだもの。本当に予約されちゃったの、あたし」 「母ちゃんも、バカだな」 「そうなの」 笑顔を崩さずに、頷く。静かな時間がゆっくりと過ぎて行く。 「でもね、その呪いももう解けちゃったの。こんな痩せほそったあたしなんて、いらないってことかもね」 彼女は天井から視線を反らし、窓の外を見つめる。今日は曇ひとつなく、青々と輝いていた。 「でも今さら返却なんて、出来ないんだから。今度はあたしが彼に呪いをかけてあげるの」 「…………」 青年はただ静かに、握る手に力を入れた。もう、ずいぶんと彼女の手は暖かい。 「だからね、これ……あなたにあげる」 「……え」 大事にしなさい、と覆い被さった手から渡されたのは玩具の指輪だった。 「これはパパとママの、繋がりなの。だから……」 「うん、大事に、す……る、よ」 青年の瞳からこぼれた一筋が、白い床に落ちて弾けた。 三日後、彼女は父のもとへと旅立った。 涙で濡れた指輪をひとつ。
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