─手紙─

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……本当に、本当にいろんなことがあったものだ。平凡な家に生まれ、平凡に育ち、当たり前に野球に青春を捧げ、プロどころか甲子園にも行けずに、ただ女性を愛し、普通の幸せを手に入れ、母は父を追い、三人の子供も無事見届けた。人は私の人生を見て退屈だ、面白くないというのかも知れない。しかしそんな平々凡々な人生に、同じ時間なんてひとつも流れていなかった。今日は昨日とは少し違い、今日はこの先一度も訪れない。少し、このほんの少しの変化で、私は満足なのだ。……私はもうすぐ死ぬのだろう。だが、その死を待つ日々さえ私には新鮮で刺激的な毎日だ。本当に、人生とは楽しいものだ。よく人は生きる意味を求めるものだが、それは間違っているのだと最近ふと気がついた。人生に意味など存在しない。ただ……その無意味な人生をどれだけ面白おかしく生きられるのか。意味は無くとも意思はあるはずだ。人生とは、人類への神様からのギフトなのだ。私はギフトを使いきった。この上なく幸せに使いきった。そして私はこの手紙を、人生の最後に組み込むことで私の物語を完成させたいと思う。私の平凡な回想録は、彼はいつまでも幸せに暮らしました。めでたしめでたし。で幕を閉じるとしよう。では、これにて閉幕だ。ようなら、私の世界。
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