─カタミ箱─

2/3

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
やぁ、老若男女の皆さんこんにちは。おはよう? それともこんばんはかな。まぁそんなことはどうだっていいんだ。 君は形見箱というものをご存知かな? これは西洋にある国の廃れた古い風習でね。生まれてから死ぬまで、小さな箱の中に思い思いに物を詰めていくんだ。箱の中身が満ちたときその人の人生は完結した、として安らかに生涯を閉じる。なんてものでね、ぼくはこの形見箱という風習には感銘を受けずにはいられないんだよ。 人間の、短く無意味だが唯一無二の一生がそこに詰まってるんだよ。まさに人生の縮図じゃないか。廃れてしまったのが悔やまれるよ。僕が当時もう少し君たちに興味があれば……いや、僕は基本的に不干渉主義者だからね。ほら、君だって蟻を専用のキッドで飼う時に代わりに巣穴を掘るなんて真似はしないだろう? あれは蟻が巣穴をいかに掘るのかを楽しむものだからね。それと同じさ。君たちがいかな過程でいかな結果を導きだすのか、僕はそれを眺めて楽しみたいのさ。 おっと、話がそれてしまったね。えっと……そうそう形見箱。とにかく今日はこの形見箱という結果をつかって暇潰しをしようと思ってね。 ここにひとつの形見箱がある。悪の魔王から世界を救った訳でもなく、大恋愛の末に悲劇的な最後を遂げたわけでもなく、突然馬鹿げたデスゲームに参加させられた訳でもない、何処にでもいる掃いて捨てるほどなんの変哲もない平々凡々なひとりの男のものだ。 そんなガッカリした顔をしないでくれよ。確かに彼の人生は誰にでもあり得るありふれたものだったけれど、そんな日常にこそ非日常(モノガタリ)っていうものは潜んでいるものなんだよ。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加