─クレヨン─

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カァ、カァ……黒い濡れ色の翼を大きく広げながら、斜めの太陽が身を隠す巨体の山へとカラス達は吸い込まれてゆく。ぶぶん、ぶぅんと排気ガスを吐き出す車も心なしか急ぎ足で通りすぎていった。 まだ油で汚れていない真っ白な換気扇の下に掛けられた銀の額縁から切り抜いた風景を見つめ、そろそろかしら。と女性もすこし急ぎ足で沸騰し始めたお湯に味噌を溶かしかき混ぜる。 まだぎこちないその手つきは、それでも楽しそうに嬉しそうに幸せの家庭の味を作り上げていった。 茶色の海に白い豆腐とワカメをダイブさせ、お玉ですこしだけすくいだして啜ってみる。 「んふっ……よし」 小さく含み笑いをした彼女は、振り返り居間の時計を確認する。彼女の趣味に合わせられたクラシック徴の円形は6時30分を彼女に伝えてくれた。 ふと、居間の机でスケッチ帳を広げている少年が目にはいる。 「あら、なにを描いてるの?」 「まだヒミツー!」 彼は無邪気に笑いながらそう答えてくれた。小さくて柔らかい手でクレヨンをグッと握りしめ、広げられた画用紙の上にそれをぐりぐりと押し付けている。 あら、上手ねぇ。と呟きながら彼の後ろから中腰でその様子を眺めていた。 遠くで、帰り損ねたカラスが妻子を想いカァ……と鳴いた。
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