0人が本棚に入れています
本棚に追加
夕方になって、玄関のドアが開く音がした。
彼だ!
私はずっと落ち着かなかった。
あんな手のこんだ悪戯を彼がするわけない。
でも、あの夜景を見ていた時の記憶が曖昧すぎる。
彼とのデートはいつもちゃんと覚えているし、手帳にもしっかりマークを付けているのに。
そういう焦燥感が否めないでいる今は、確実に彼に会うのが懸命だ。
そして玄関に私はかけて行く。
「お、おかえり! ユウ! あの……新聞のことなんだけど!」
私は思いっきり彼に叫んだ。
すると彼が玄関に入るなり、
「ただいま。リナ。今日は約束通りアップルパイを買ってきたよ。リナのお気に入りの駅前の店でね。一緒に食べようか」
彼はいつも通り優しく微笑み私に言う。
「違うの! そうしてくれるのは嬉しいんだけど……私の新聞の記事、どういうことなの? 私を驚かせようとしているの!?」
私は懸命に訴え掛ける。
でも、彼には私の声が届いていないようで、彼はリビングの方へ歩いて行き、
「今日は疲れたよ。ずっと僕はリナのことを考えてたんだ。一人で寂しいんじゃないかってね。僕がもっとしっかりしないと、リナを守れないのに……守れないのに……」
「ユウ……!」
彼は鞄を下げたまま、アップルパイを見つめて、寂しそうな表情をした。
「ユウ? ねえ、ユウってば! 私、ここにいるのよ? 分かるでしょ? ねぇ、どうしてそんな表情するのよ! 一緒にアップルパイ食べるんじゃないの!? ねぇ、ユウ……私はちゃんと守られているよ……?」
私は彼に近づき、彼を抱きしめる。
しかし……
私の想いは虚しく、腕が……
彼をすり抜けていく……
やっぱり私は。
本当に……
最初のコメントを投稿しよう!