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《Ⅴ》
なぜこんな事になったのか?
そう、私はぬるめの水に浸したタオルを絞りながら自問自答をしていた。
先程フォルテ様に弁解と説明を終え、そそくさと部屋から退散した。
そして暫くして部屋の中から私を呼ぶ声が聞こえた。
「クレスゥ~」
幻聴だと思いたい。声の質、響き、どれを取っても瓜二つだ。勿論、この背筋をチリチリと刺激する、悪寒に近い感覚までも。
その経験と本能からくる感覚を理性でなだめつつ、ドアをノックして戸を開けた。部屋に踏み入れた私に、フォルテ様はこう命じた。
「背中が拭けないから拭いて、<パパ>」
ベットの上に座り込み私に背を向けたまま、後ろ手にタオルを差し出しながら。
上半身に何も纏わぬままに。
窓から射し込む星明かりに照らされ、眼に眩しいほどの白い素肌が浮かび上がる。
ミルクのような乳白色の小さな背中に、金糸のごとき髪が美しいコントラストを描く。
脂肪は薄く、いまだ女性らしい曲線は描いていない未成熟な身体ながら、その姿はまるで一枚の絵画のように美しかった。
私はタオルを片手に歩み寄り、もう片方の手で少女の背に掛かる髪をかき分ける。その際に肌に指が触れたのか、ピクリと小さく身を固くした。
外気に触れる素肌は、まるで降り積もったばかりの新雪を連想させる。
妙な動悸を抑えつつ極力平静を装い、白磁のような背中にタオルを這わせた。
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