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《Ⅳ》
チェックインを済ませ、簡素ながら清潔感のある宿屋の二階へと上がってゆく。流石に清潔感があると言っても、今まで暮らしていた城とは比べ物にはならないが。
背から降りたフォルテ様は、周囲を興味深そうに眺めながら私の後を付いてきていた。
そして部屋に荷物を置き、夕食を頂いて部屋に戻りくつろいでいた所で、事件が起こる。
「ねぇクレス、お風呂はどこにあるの?」
部屋に二つあるベットの一つに腰掛け、フォルテ様は足をばたつかせながらそう聞いてきた。
「風呂……ですか? 恐らく、この町の規模だと存在しないかも……しれません、ね…………」
言葉を告げていく間に、フォルテ様の表情が徐々に曇ってゆく。
城の中であれば地下から水を汲み上げ、常に浴場には湯が張られている環境にあった。だが一般的な生活ではそんな事はありはしない。例えここより栄えている街に行ったとしても、公共施設として幾つかの大衆浴場がある程度だろう。
ちなみに私の幼い頃は、川で水浴びをして済ませていた。
流石にどこの町や村にも石風呂(サウナ)があるとは思うが、色々な面を考慮するとフォルテ様が使用するには厄介である。
私のせいでは無い筈だが、なぜか非難めいた視線を浴びせられ、そそくさと宿屋の女将に確認しに行く。
そして部屋へと戻ってきた私の手には、ぬるい水が張られた桶と数枚のタオルが存在した。フォルテ様は私の顔と手に持った桶との間で、何度も視線を往復させては小首を傾げる。
「フォルテ様、これで身をお清めください」
そう、なるべく平坦な口調で言葉にした。場に沈黙が降りる。
そしてポカンとした表情のままのフォルテ様に、説明を開始した。勿論……私が悪いわけではないと云うことを、懇切丁寧に。
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