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突然の来訪に、突然な事態。あまりにも急速な展開を迎えた我が国、そして他国との情勢は混乱を極めた。
何故か?
その理由は、その魔王の使者の言葉にある。
『魔王様はこの世界へと遊び相手を探しに参りました。侵略や略奪等に興味はありません。ただこの世界へ訪問した旨をお伝えに上がりました』
蒼白い肌をした魔族の青年はそれだけを伝え、背に生やした翼を羽ばたかせ城を後にした。
その言葉は様々な物議を醸し、世界は混乱の一途を辿る。結局のところ、魔王の真偽が読めなかったのだ。
『遊び相手を探しに来た』――私には冗談にしか聞こえず、真に受ける者はいないであろう。
『侵略や略奪等に興味はありません』――お伽噺や伝承に聞く魔王ならば、それは間違いなく嘘であり、罠としか思えない。
『ただこの世界へ訪問した旨をお伝えに来た』――以上二点を踏まえ、相手はこちらの混乱を狙い、その隙にこの世界を侵略するつもりなのだと、容易に想像が付いた。
だが結局、魔王の使者が訪れて一ヶ月が経過した現在、魔王は何のアクションも起こしていない。
この一ヶ月の間で幾つもの大国、小国は和平を結び、魔王の侵略に対する防衛陣を形成したが、何とも肩透かしを喰らった気分である。
我がグランスワール王国が中心となって、いままで争っていた国同士が一丸となって魔王に対抗しようとしていたのだが、正直なんと言って良いやら…………。
魔王が訪れてから、この世界は<平和>になってしまった。
勿論、いまだ魔王に対する防衛陣は張られたままで、各国は警戒体制を弛めてはいない。いつ攻められても良いように、軍事整備はいまだ進められてはいる。
だが流石に一ヶ月も緊張の糸を張り続ける事も出来ず、ただ惰性に任せた日々を送っていた。最近では『本当に魔王は、遊び相手を探しに来ただけなんじゃないか?』などと噂が流れ出す始末だ。
仕舞いには和平を結んだ国同士での流通も盛んになり、民の生活は以前よりも豊かだ。更には魔王出現により悪くなっていた治安も、最近は何も起きない日の方が多い。
その原因は全て、今だ見ぬ<魔王>にあった。
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