クレス・スタンノートの苦労

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 私も先日までは慌ただしく動き回っていたのだが、現在は正直暇を持て余し気味であった。  勿論、空いた時間は己の鍛練に当ててはいるが、最近はそれだけで良いのかと焦りを覚えてしまう。それは恐らく、アルト様も同じなのであろう。  他国との和平締結が短期間で完了したのは、アルト様の手腕によるものが大きい。それは勿論、魔王に対抗すると云う大きな要因があってこそだが。  ふと、こちらへと近付いてくる足音が耳に触れる。大小二つ、更にははしゃぐような幼い少女の声が伴っていた。  そちらへ視線を向ければ、華奢なその身を赤のドレスに包んだフォルテ様の姿があった。その背後には、執事長を務めるオラン・シュラザートが付き従っている。 「御母様ー!! クレスー!!」  フォルテ様はこちらへと足早に近付きながら、光弾ける笑顔をともなって手を振ってくる。一瞬、転びはしないかと心配になったが、後ろに執事長のオランが居るならば杞憂に終わるであろう。  アルト様は笑みを溢しながら小さく手を振り、私は頭を深く下げる。 「御母様っ!!」  微かに息を切らせながら、フォルテ様はアルト様に抱きついた。 「あらあら、お勉強は終わったの?」 「飽きちゃったからきゅーけー!!」  その返しにアルト様はクスクスと楽しそうに笑みを溢す。 「フォルテはおてんばね」  つい『貴女が言うな』、と口を挟みそうになったが自制する。
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