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朝の通勤ラッシュは憂鬱だ。
暑苦しい車内、おっさんの香りが強烈すぎて窒息死しそう。
長く息をとめたあと、少しだけ空気をすうと、ふんわり甘いバニラの香りが鼻孔をくすぐった。
きょろり、と辺りを見回すと、くるんっとカールした頭が見えたが、一瞬で人混みの中へ埋もれた。
電車が大きなカーブへさしかかると、ガタンと揺れ、さっき見た頭がひょっこり現れ、そしてまた埋もれようとしている。
俺は咄嗟に埋もれそうになる奴の腕をつかみ、引き寄せた。
「ぶにゃっ」
奇妙な……音?
俺より頭3つくらいは低い位置にあるカール頭を見ると、ちょうど胸元あたりで顔面が潰れているようだった。
―― 俺が急にひっぱったりしたからだよな?
「悪い」と、一言謝ってみたものの、反応がない。
「おい?」
「…………」
反応なし。
ピクリとも動かず、俺の胸元に顔面をくっつけたままだ。
満員電車の車内、身動きがとれずにただじっとカール頭を見つめた。
ほんのり香るバニラの甘い香り。
近いせいか、さっきより強く香る。
甘い甘いバニラの香りは、鼻孔から身体中をめぐり、脳内へ。
くらくらと、目眩にもにた感覚に身体がふわふわする。
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