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カール頭は、ぴくりとも動かない。
さすがに心配になり、「おい」と声をかけてみたが、やはり反応はない。
少しだけ頭をさげて、ようく耳を澄ませると、すーすーとすこやかな寝息がきこえてきた。
まさかの、まさか、だ……
この満員電車の中、他人の胸をかりて寝る奴がいるだなんて……
この状況をどうすることも出来ず、俺はただカール頭を見つめた。
―― 甘いバニラの香りは香水だろうか?
そんなことを考えていると、電車が駅につく。
俺が降りる駅なんだが、胸元ですやすや寝てる奴を放り出すことができず、電車は発車してしまう。
まさかのまさか……だ
2駅、3駅とすぎてゆき、4駅目でカール頭がぴくっと動いた。
眠そうな瞼を一生懸命ひらこうとして、失敗したらしい。
こてん、とまた俺の胸元へ……
まさか、まだ寝るのか?と、頭を下げ、じっと見つめていると、ガバッと勢いよく顔をあげたカール頭の奴。
ちゅっ
―― あ……マジかよ
カール頭の奴が勢いよく顔をあげるもんだから、俺の唇が奴の額に……
まさかのまさか、だ……
おでこにチュウ
カール頭の奴は気にした風もなく、眠そうな瞳を開ける。
紅茶の飴玉のように甘い瞳の色。
カール頭の奴は、ふにゃっ、と瞳を細めて笑うと、「おりる駅だ」と、言ってあっさり降りていった。
まきのまさか、だ……
胸をかした俺は降りる駅を通り過ぎ、会社は遅刻。
―― 最悪だ……
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