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何度か攻防がつづき、俺の惨敗。
離すたびに、小さく唸り、かぶりを振るカール頭。
そのたびにふわっと香るバニラの甘い香り。
なぜだろう?その香りをかぐたびに負けてしまうのだ。
まるで、それは甘い誘惑のように……
昨日と同じように、自分の降りる駅に着くと、カール頭は目をぱちりと開けて、それからふにゃっと笑う。
「ありがとう」
少し高めのテノールの声が、囁きを残して電車を降りる。
そうして、バニラの甘い香りと、俺だけが車内に残される。
俺は2日連続で遅刻。
それよりも、問題なのは、残るバニラの香りと、耳に残る澄んだ声が、俺の心拍数をはねあげているということだった。
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