雨の福音(カンパネラ)

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ベランダは簡素なテラスの様になっており、屋根も付いているので濡れる事は無かった。 此処は高層マンションの一角であり、下界を見下ろすように男は景色を確認する。 暫く眺めたまま、ポケットの中に入った一本の煙草を取り出すと口に咥える。 火が無い事に気づき、室内に戻るとジッポを握りしめたまま、再び先程の位置に戻ると火を付ける。 長らく、彼女が居る間は吸って居なかった為か美味しいとは感じず、すぐさま手すりで揉み消した。 煙から逃れる様に再び室内に戻ると携帯電話が鳴っていた。 男は突然慌てた様子で携帯電話に駆け寄ると、すぐさま通話ボタンを押した。 話を聞く男は次第に頬が綻ぶ。 喜びに満ちたその表情は、少しだけ誇らしくまた少しだけ涙目になっていた。 通話が終わり、携帯電話をポケットにしまい込むと辺りを見回す。 ゴミに躓(つまづ)きながら、慌てた様子でくたびれたコートを羽織る。 財布と家の鍵を漁り、少しだけ鏡の前で自分の身なりを整えた。 そして、男はそのままドアノブを回し、家の鍵をかけ外の世界に飛び出した。
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