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7月、まだ微かに蛙の鳴き声が聞こえる夜道。
小夜はずっと時計台を凝視していた。
「小夜ちゃーん!」
誰かが、白地に桃色の桜が描かれた浴衣を着て、下駄をカンカンと鳴らし走ってきた。
辺りは暗く、相手の輪郭すら見失いそうな程ではあったが、そう呼ぶ声で小夜は判断がついた。
「美波!遅いよ、待ち合わせ時間とっくに過ぎちゃってるって……」
小夜は時計台を指差しながら、美波を睨んだ。
そんな小夜にはお構い無しといった表情で、美波は「小夜ちゃんの浴衣姿かわいい!」だの「早く行こう」だのと繰り返している。
「ったく…。分かった、分かった。行こう美波」
「わーい!お祭りお祭り!何食べようかなっ」
小夜は美波に聞こえない様に小さく溜息をついた。
美波は、小夜のクラスメイトであり親友である。
…というのは表向きの事実であり、小夜は美波に好意を抱いてはいない。
「小夜ちゃん、本当かわいすぎるよ!蝶々の模様が似合ってるっ!!ねぇ、小夜ちゃん何から攻める?ヨーヨー釣り?それとも何か食べる?」
「ん……何でも。美波の行きたい所でいいよ」
「ほんと?うーん、じゃあ射撃しに行こ?」
「うん、いいよ」
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