私という存在

3/6
前へ
/6ページ
次へ
 大学の合格発表の時だったでしょうか。受験番号が無く、不合格かと思い肩を落とす、私の耳に拡声器を通して、誤りを通達する声が聞こえました。どうやら、作業上のミスで合格していたのにも関わらず、私の名前と番号が抜け落ちてしまっていたこと。就職の合格通知なんかは、封筒ごと配達されないという珍事までありました。けれど、私は特に何とも思いませんでした。それが、私という存在だからと、自分の中で納得していたのでしょう。  家に帰っても、学校と大差ない生活を送っていました。  私が、「ただいま」と、一回言っただけでは返事はきません。二回、三回と言ってやっと、親から「おかえり」という、言葉が返ってくるのでした。そして、少し後に「おかえり」と言った事すら忘れてしまうのでした。私の部屋の前や中にモノが置かれているなど、日常的で、家族が私の部屋を忘れてしまっていた。  これが、私の日常でしたから、私は誰かに無視されたりするのに、慣れきってしまい反発する気にもおきませんでした。  こんな他人から見たら不条理としか思えないような人生が私の人生であり、私が他人から○○のような存在として扱われる証でもありました。キャッチセールなどに引っ掛からないという利点はありますが。  道端で私が人にぶつかるなど当たり前で、私がどんなに回避しても人にぶつかるのでした。ぶつかれば、ぶつかったで、私に気付いて相手は謝ってくれますが、ほんの数秒後には私の存在など、忘れ去られてしまうのでした。  会社勤めでありますが、仕事は事務で至って地味です。ただ、黙々と仕事をこなすだけの。給料は振り込み式なので、忘れられることはありませんが、時々、忘れられているのではないかと不安に思うこともありました。  私はどこにいっても、○○のような存在のままなのです。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加