オキクの復讐

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「いいえ、その人です…。でも、どうもユカの事は受け入れてくれないみたいで」 「デートにユカちゃんを連れて行ったんでしょう?」 「あっ、受け入れてくれないのは父親の方でして…。お付き合いしている女性は、ユカを連れて行った時優しくしてくれたんですが、正直まだどうだかわかりません。」  ナミは黙って石嶋を見つめていた。 「この結婚を考えようと思っても、もしユカが先生のおっしゃっている通りだったら、ユカが心配で…。逆に、ユカは落ち着いた両親がそろったところで育った方が、自分みたいな半端な人間のもとにいるより幸せになれるんじゃないかとも思うし。それにユカの為に自分の夢をあきらめても、後々ユカは本意じゃないと悲しむかもしれないし。」  黙って石嶋の話を聞いていたナミだったが、ついにキレた。 「石嶋さん、あなた馬鹿ですか?」 「えっ?」 「おかしいんじゃないですか、ユカちゃんのこと考えているようなこと言ってますが、一番大切なことから逃げています。ユカちゃんと一緒にいることを選んで、もし仕事が上手くいかなくなったらユカちゃんのせいにするんですか?ユカちゃんと離れることを選んで、結婚生活が上手くいかなくなったら、ユカちゃんに負い目があったからって言うんですか?」 「何も先生、そんなに怒らなくても…。」 「いいですか、大切なことは石嶋さんの想いがどこにあるかなんじゃないですか?仕事が好きなんですか?その女性が好きなんですか?ユカちゃんが好きなんですか?おい、石嶋隆浩。お前の想いはどこにあるんだ。」  待合室まで聞こえるほどの大声に、石嶋は震えあがった。看護師が止めに入るか悩むほどの剣幕である。 「この際ユカちゃんなんか考えなくていい。あなたの想いがどこにあるかで決めればいいんです。それで決めたことなら、それがもしユカちゃんと離れることであっても、ユカちゃんはそれを受け入れなくてはいけないんです。いや絶対わかってくれます。今日つらくても、結果的に明日は幸せになれるんです。」  興奮のせいか、なぜかナミの目に涙がにじんでいた。 「だから、今こうして目の前に座っている石嶋さんは、情けないひきょう者にしか見えません。診察は終わりです。お帰り下さい。次の方どうぞ!」  それだけ言うと、ナミは石嶋を見ることもなくカルテのモニターに顔を埋めた。だから、石嶋がどんな表情で出て行ったのか、ナミは知ることもなかった。
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