オキクの復讐

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「別にわたしたち付き合ってるわけじゃないですよ。今は泰佑と働くオフィスも別なので、全然会ってないし。」 「高校の時と同じように、前日からそわそわして…。珍しくめかしこんで出て行った日があって。その日以来様子がおかしくなったんです。あの日、青沼さんとお会いになったんじゃないかと思って…。」 「いえ、別に会っていませんが…。」  希久美は嘘をついた。あの日、自分が泰佑に何の目的で何をしたのか、ミチエに言えるはずもない。 「そうですか…。変なこと申し上げてごめんなさいね。ならば、わたしの話し忘れてくださいな。」  ふたりの席にそばが運ばれてきた。そばを見て希久美は、翁庵で不公平なシェアに抗議していた泰佑を思い出していた。しばらく、黙ってそばを食べていたふたりだが、希久美が箸を止めてミチエに問いかけた。 「あの…。プライベートな話なんですが、聞いてもいいですか?」 「どうぞ。青沼さんなら、なんでもお答えしますよ。」 「あの…。泰佑はお母さんとどんなだったんですか?」  ミチエは、箸を止めてしばらく希久美の顔を見つめていた。答えをためらっているというよりは、どう説明していいか考えをまとめているような感じだった。 「泰佑の母親は、つまり私の娘ですけど、とても自己中心的な子でね。なにかあると全部人のせいにするし、ひとに謝ったこともほとんどない。考え方が常に、自分が世間に対して何ができるかより、世間が自分に何をしてくれるのかだったのです。私の育て方が間違っていたんでしょうね…。だから、自分の子供に関してもそうでした。泰佑にとっての自分を考えることができず、常に自分にとって泰佑がどうであるかしか考えられなかったのね。」  ミチエは、もう食欲をなくしてしまったようだ。箸を置いて話すことに集中していた。 「泰佑を産んだ時、自分の天中殺の期に生まれた子だと言って、はなから自分とあわないと決めつけていたようでした。意図的に遠ざけていたようだし、会えば文句ばっかり言っていました。父親と同居している時はまだよかったんだけど、離婚してからは私が預かることにしたのです。でも、娘の為に言っておきますが、決して泰佑を愛してなかったわけじゃないのよ。愛し方が適切じゃなかったの。」 「今はどうなんですか?」
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