オキクの復讐

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「中学時代、高校時代の時は、大事な野球の試合は見に行っていたみたいだけど、今ではもうほとんど会うこともないし、たとえ会ったとしも泰佑はひとこともしゃべりません。」 「そうなんですか…。」 「あの…。母親のことが今の泰佑に何か関係があるんですか?」 「いえ、別にそう言うわけじゃないんですけど…。」  ふたりは食事を終えて店を出た。 「図々しいお願いですが、もし機会があったら、泰佑と話してやってもらえますか?」 「はい…。おばあちゃんも御心配でしょうから、近いうちに私も連絡を取ってみます。」 「そうですか、ありがとうございます。今日は突然おじゃましてすみませんでした。」 「いえ、こちらこそご馳走になってすみません。」  手を振ってミチエを送る希久美ではあったが、ミチエとの約束を守れるかどうか自信が無かった。  石嶋の誘いで希久美は指定されたレストランに向かっていた。希久美の気は乗っていなかったが、断る理由もないので義父の手前、承諾したのだ。一方石嶋は、ナミに相談に行く前に取り付けた約束だったので、ナミに再び怒鳴られた後では当初からの積極的な姿勢を失っていた。案の定、気の乗らない希久美と積極的姿勢のない石嶋の会食は、言葉少ないだるいものとなってしまっていた。  石嶋は、先日ナミに怒鳴られたことが堪えていた。これでナミに怒られるのは2回目だ。今回は情けない卑怯者とさえいわれて、取り返しようもないほど自分に失望したようで気が重かった。今までのナミとのやり取りを思い出す。ナミは石嶋の前で様々な顔を見せる。診察室に居るナミは、冷静で優秀な医師そのものだが、ユカと話す時は母のようで、雷の前では少女の様で、酔っぱらった時は叔母さんの様で、キッチンで料理している時は妻の様で…。えっ、何考えてるんだおれ。だいたい俺にさんざん怒っていたが、メールで俺を迎えに来させたりして、ナミ先生自身はいったい何を考えているんだ。石嶋がナイフとフォークを置いて希久美に話しかけた。 「青沼さん。質問があるんですが…。」  希久美もようやく自分ひとりでないことを思い出して、石嶋を見た。 「はい、なんでしょう。」 「女性の本当の想いを知るためにはどうしたらいいんでしょうか。」 「それ、私のことですか?」  希久美が警戒して石嶋に答えた。
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