オキクの復讐

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 希久美が病院に駆けつけた時、泰佑は相部屋の病室のベッドで点滴を受けながら寝ていた。そばにミチエが付き添い心配そうに泰佑を見守っている。顔見知りである希久美に気付いたミチエは、安心してすこし顔を明るくして声をあげた。 「青沼さん。来て下さったの。」 「おばあちゃん。泰佑はどうですか?」 「今は落ち着いて寝ているけど、さっき気がついた時は、これから仕事へいくんだと大騒ぎだったのよ。」  希久美は寝ている泰佑の顔を覗いた。驚いた。たった10日間前後でこんなに顔が変わるのか。頬が痩せこけ、あごの線が鋭くなっている。目の周りが落ちくぼんで、若干くすむとともに、肌と唇は荒れ放題。イケメンの残影はあるものの、躍動していた泰佑の面影はまったくない。 「そうですか…。でも命に関わるほどじゃないんでしょう。」 「今はそうだけど、退院すれば同じ事繰り返して、いずれは命に関わることになるような気がして心配だわ。」  そう言いながら心細くなって震えるミチエ。希久美はその肩を優しく抱いて慰めた。病室のドアが開いてナミが入ってきた。希久美と目で挨拶する。 「そうだ、おばあちゃん。今入ってきた先生が、私の同級生で荒木先生と言うの。科は違うけどこの病院では顔が利くから、困ったことがあったら何でも相談してね。」  ナミがミチエの手をとり挨拶した。ミチエは、よろしくお願いしますと言いながら何度も頭を下げた。 「おばあちゃん、ちょっと荒木先生と話してくるから待っててね。」  希久美とナミが連れだって病室を出て、廊下にあるベンチで話し始める。 「どうして泰佑だとわかったの?」 「救患で精神科がからんでる予見があったんで、とりあえず私が呼ばれたの。カルテの名前を確認して驚いたわ。」 「そう…結局、泰佑はどうなの?」 「患者さんのことは、部外者に話せないのはわかってるわよね。」 「いいから話しなさい。」  希久美の言葉に有無を言わせない強さがあった。ナミはしばらく考えた後話し始めた。 「まあ、あんたもこの件では部外者だと言える立場でもないしね…。過労からくる自律神経失調症よ。今は、メジャートランキライザー、つまり強力精神安定剤を投与して寝てるけど、目が覚めたら、また仕事に戻るって騒ぎだすでしょうね。」 「過労の原因は?」 「それはオキクが一番よく知ってるでしょ。とにかく最後の一発が致命傷だったのね。」
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