オキクの復讐

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「おばあちゃんが、退院すれば同じ事繰り返して、いずれは命に関わることになるんじゃないかって言ってたけど…。」 「適切な治療を受けなければその通りね。」 「治療って前の話し?」 「そう、心の奥底に行って原因を見つけて、取り除いてあげる。でもこの病院にはそれができる人材も設備もないわ。」 「あれ、青沼さん。なんでここに?あっ、ナミ先生…。」  ひそひそ声で話しているふたりの前に、突然石嶋が現れた。驚いて立ち上がるふたり。同時に病室のドアが勢いよく開きミチエが飛び出してきた。 「青沼さん。なんとかしてください。泰佑が起きだして、仕事へ行くと言いだしてるんです。」  希久美が、石嶋とナミを残して病室に飛び込む。泰佑が、半身起こして、乱暴にも点滴の管を抜こうとしていた。 「このばか泰佑っ!あんた何やってんの!」  希久美の一喝は、泰佑どころか、相部屋のすべての人々を凍りつけるに十分な迫力とパワーを持っていた。 「オキクだ…。」 「なに、あたしがいちゃ迷惑?つべこべ言わずに、おとなしく寝てなさい!」  泰佑は、すごすごとベッドに戻り、希久美に言われるがままに布団を被った。 「青沼さん。あなたさすがだわ。」  仁王立ちの希久美の背後でミチエが絶賛の拍手を贈る。ナミと石嶋が希久美の剣幕に怯えてその様子を見守っていた。  今泰佑のベッドを、希久美、石嶋、ナミの3人が囲んでいた。それぞれが何かを言いたそうなのだが、誰も口火を切れない。雰囲気を察知したミチエは、果物でも買ってくると病室を出てしまっている。4人がお互いの顔を盗み見しながら流れる気まずい沈黙を、救世主が現れて打ち砕いてくれた。 「泰佑ちゃーん。おかげんどう?あらま、みなさまお揃いで。」 「テレサ!」  4人が同時に彼女の名を呼び、そして皆が彼女の名を知っている事にまた驚いた。 「あんた、なんでここに?」 「ナミが一大事だから来いってメールくれたの。」 「ナミ!」 「だって、オキクが来るって言うし、3人いた方が心強いかと思って…。でも、なんでヒロパパがテレサを知ってるんですか?」  石嶋はこの前の怒りを忘れて久しぶりにヒロパパと呼ばれたことが嬉しくて、声を裏返しながら答える。 「いえね、青沼さんとユカとで上野公園に行った時に、お会いしたんです。」  ナミの顔色が変わった。 「えっ、するとヒロパパのデートの相手ってオキクなの。」
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