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泰佑はやっとのことで、声を絞り出した。
「ひさしぶり、石津先輩。」
「お前死んだんじゃ…。」
「そうですよ、天国からいつも先輩を見てたの気付かなかったですか?」
「どうしてここへ…。」
「先輩があまりにも情けないから、見てられなくて。」
「そうか…。」
泰佑はしばらく黙っていたが、何度も唾を飲み込んで、強い声を作ろうとしていた。これだけははっきり伝えようとする意思が希久美にもわかった。
「菊江、酷いことしてごめんな…。」
「そうですよ、酷いですよ。私泣いちゃいました。」
「本当にごめん…。」
希久美は、泰佑の謝罪には答えず泰佑の汗ばむ額をなぜながらしばらく黙っていた。
『オキク、ここで許してあげるのよ。』
インカムからナミの声が聞こえた。希久美はそれでも何も言わなかった。ただ、泰佑の額を撫ぜ続ける。
『何してるの?はやく許しの言葉を与えるのよ。』
希久美から出てきた言葉は違っていた。
「石津先輩、絶対に許しません。」
「ああ、そうだろうな…。わかってたよ。」
希久美は、今度は泰佑の手を握った
「ところで、なんでこんなになっちゃたんですか?」
「ふふふ、情けない。」
泰佑のその後の言葉が出てこない。希久美は握っている手の力を強め、泰佑を力づけた。励まされた泰佑がようやく口をひらく。
「実はね…。」
泰佑は、シェラトンホテルで希久美に話したと同じストーリーを、かすれる声でゆっくりと話し始める。
「…。好きになった女性を男として愛せない。女性としての幸せをあげることができない。そんな自分が息もできないくらい情けなくて、彼女のことも自分のことも忘れたくて仕事してたら、いつの間にかここに運ばれてたんだよ。」
『うわっ、ねえこれってすごくない。石津先輩の頭の中にある、まぎれもない本心を聞いたのよね…。』
『シッ!』
テレサの興奮した声がイヤホンを通じて聞こえてきた。
「石津先輩、その女のひとがそんなに好きなんですか?」
「ごめん、菊江にはわるいけど…。」
「その女、やめた方がいいですよ。石津先輩を殴ったり蹴ったり、薬盛ったり、挙句の果てに遊びで先輩をホテルに誘ったりしたんでしょ。何考えてるかわかりません。」
「でも、何やらせてもカッコいい女性なんだぜ。焼いてるのか?」
「違います!もっとも死んでしまった私には関係ないですけどね。」
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