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「安心しろ、親友がお見合いしている相手なんだから、これ以上近づかないよ。」
「お見合いだなんて…。」
『そんなこといいから!薬が効いてる時間は短いのよ、次へ行って!』
ナミに遮られて、希久美の質問は次の段階へと進む。
「でも、どうして私とだけできたんでしょうね?」
「そうだね、どうしてかね。」
「私と出会う、もっと、もっと前のこと話して下さいよ。」
泰佑は、今度は何も答えなかかった。何かが飛び出さないように、まぶたと口を固く閉じているようだった。希久美はベッドにあがると、泰佑の傍らに横たわり、腕枕をして泰佑の頭を包んだ。泰佑は、希久美の香を体に取り込むように深く息を吸った。
『ちょっと、オキク。あんた何やってるの?』
ナミの問いにも答えず、希久美は質問を続ける。
「安心して話してください。私はここにいるし、ずっと先輩を見ているから…。」
泰佑は、希久美の腕の中で大きくため息をついた。
「何から話せばいいんだ…。」
「小さい頃の話ですよ。まぶたを閉じたら、ほら子供が見えたでしょ。」
「ああ…。」
「その子は何してるんですか?」
「…お母さんを探してるんだ。幼稚園で折り紙のリボンが上手く出来たから、見せたくて…。」
「お母さんは居ました?」
「見つかった。でもマイナスイオンが出る敷布団を売るとかで、知らない叔母さん達と相談している。」
「それでどうしたの。」
「話が終わるのを待ってた。」
「いい子ですね。」
「叔母さん達が帰ったから、お母さんを呼んだんだ。けど…呼んでも、呼んでも、こっちを見てくれない…。」
希久美は、泰佑の髪をなぜながら黙って次の言葉を待った。
「その子は…頭にきて、折り紙をくしゃくしゃにして床に放り投げた。でも、そのごみですら、何に日もそのままになってた…。」
知らずに泰佑の頭を抱く希久美の腕に、力がこもっていた。
「でも、そんなことばかりじゃないでしょ。」
「ああ、今度はお化粧台の前に居るお母さんを見つけた。これから訪問販売にいくから化粧しているらしい。一緒に連れて行ってくれるんだって。」
「よかったわね…。」
「行くとまたこの前の叔母さん達が待ってた。お母さんが、これから知らない人の家に行くから、ここで待ってなさいって言った。」
「どこで待ってたの?」
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